罪の意識-ライドウ編





 夢を見た。その夢は緑と青と白で構成されている。どこまでも広がる青い海の真ん中で銀楼閣のようなビルヂングの上で、寝そべっている。太陽が降り注ぐのがとても暑くて、わざわざ外套を着ているのもばからしく、それを半ば捨てるように脱ぎ去った。
 空を羽を生やした緑色の魚が飛んでいる。とすれば海には鳥が泳いでいるのだろうかと思い覗き込むとそこには半透明の魚が沈んだ街並をその体に映し出し悠々と泳いでいた。
 「じゃあ、一体鳥はどこにいるんだろう。」
 「カラスしかいないんだよ」
 はぁ、と急にした声に驚きもせず振り返るとそこにはからすが一匹外套の上で丸まっていた。外套から出てきたのかと思うくらい、同じ黒さをしている。喋るカラスの緑の目がゴウトを思い出させる。
 「こんなに世界は綺麗なのに、鳥だけは黒なんだね」
 「お前だって黒ずくめじゃないか。」
 たしかに、と思う。自分は何故か学生服を着ている。いつも胸に着けている銀色の管は今はどこにもなかったが、それに違和感は感じない。刀と銃はちゃんとつけていた。
 「俺は…いいんだよ。」
 「暑そうだ」
 「お互い様じゃないか」
 たしかに、とからすは笑った。その笑い方はゴウトそっくりだ、というまでもなくゴウトそのものだ。夢の不思議、そう気付いたとたんにカラスは飛び立ち、ライドウの肩に止まる。
 「猫よりかはカラスの方が軽いものなんだね」
 「そんなに変わらないさ。」
 肩にとまったカラスがだんだんと重さをまして、そして止まる。慣れしたしんだ重さにゴウトだ、と思う。
 「ゴウト、探していたよ」
 「なんでだ?」
 「急にいなくなるからだ。」
 ゴウトは笑う。からからと笑う。太陽は照りつけるままに。熱を吸収して暑くなるばかりだ。真っ青な空の彼方で魚がくきょくきょとなく。
 「だったらお前もくればいいじゃないか。」
 そういってゴウトは鮮やかに海へと飛び込む。濡れていく体毛がまるで魚のわき腹のような流線型だ。海の中からこちらを見て(半透明な魚の泳ぐ中、一点だけ黒のゴウトは酷く目立っていた)、ゴウトは笑う。思い切って飛び込む気にはなれなかった。


 「そうやって何もかも、俺の傍を過ぎていくばかりさ」
 突然耳の傍で囁かれた言葉に顔を上げればそこには鳴海がいた。鳴海は陸軍兵の格好をしたまま、直立不動で敬礼している。
 「何もかも、とは一体なんですか?」
 ライドウは聞く。鳴海は酷く真面目な顔でこちらを見てさぁ、と笑った。
 「けれど思うのさ。一体このまま生きてどうするのかと。思わないかい、十四代目葛葉ライドウ?この生活をあと何十年続けるのかと。そして、」
 「その中できめねばならない事を、いつか選ぶのに疲れるというのですか?」
 「さぁ?これはお前の夢だから、お前がそう思っているのだろうよ。」
 「そんなこと思っていません」
 「どうだか…なぜならこれはお前の夢なのだから」
 そうつぶやいて鳴海もまた海に飛び込み消えていった。魚の向こう透ける町並みは廃墟そのもので薄ら寒い。