洋菓子





 筑土町にはパーラーなる洋菓子屋がある。なんでもケーキやらパフェやらアイスクリンやら聞き慣れない単語の菓子を食べれるそうだ。あまり、というか全く食べた事のない菓子の類に興味が無い訳ではなくしかし興味があると言い出す必要も感じず普段は横目に見るだけで通り過ぎていた。
 その日もそうで、窓際に並んで柔らかそうな真っ白い菓子を食べている女学生をふっと見てしまう。しかしすぐに視界からその風景は消えていって、興味はそそられながらもいつか行ってみたいなどのあまり叶いそうもないたわいのない考えを打ち消す。

 筑土町の通りをすこし足早にかけていく少年を銀楼閣というビルの三階から男が一人寝癖だらけの頭で眺めている。その男の横で美しい毛並みの黒猫がぱたりぱたりと尻尾をゆらめかせていた。
 「ライドウさぁ…あそこ通る時いっつもパーラーの方見るんだよね…。行きたいのかな。」
 鳴海はタバコを口にくわえながらそう呟く。タバコから昇る煙を猫は嫌そうに見ながら喋った。
 「さぁな」
 なんとも甲斐の無い返事に鳴海は期待して無かったけど…と苦笑いをした。
 「今度連れてってやろうかなぁ」
 男二人でパーラーか、少しだけ苦笑いしたくなるなぁと思った後、でも良い考えだと思い直す。なにどうせ長い付き合いだ。向かい合い話す事が無駄になる事は無いだろう。
 「ゴウトもパーラーくるか?」
 「甘い物は嫌いじゃないが、洋菓子はうさんくさい」
 うさんくさいってなんだと思わずにはいられなかったが要は得体がしれなくて嫌なのだろうと思う事にした。
 (ライドウが調査から帰って来たら外套を脱ぐ前に腕引っ張って連れて行っちゃおう)
 ライドウは慌てるだろうかと、鳴海はタバコをすいながら笑う。