離れてはいけません




 郷土性の強い細菌、強度のホームシック、限られた環境でしか生きられない寄生虫、五段階のレベル分け、三段階まで発病すれば戻る術はないに等しい、発病すると極度の疑心暗鬼に陥、それに伴う凶暴性の発露、身体機能の上昇。
 病名は「雛見沢症候群」
 発病する切欠は詳しくは分かっていない。確実なのは二つ。
 一、非常に高い濃度の細菌の故意による混入
 二、ここ、雛見沢村から離れてしまうこと
 予防薬、症状を抑圧する薬の製造は成功しているものの、根治を目指すにはまだ遠い。
 鳴海は、すみやかなに雛見沢村になじんだ。ここ、雛見沢村に来て一ヶ月もたたないうちにこの細菌に罹患したのだから。罹患した患者の避けるべき行動はただ一つ。発病に至りそうになるまで長い期間を雛見沢以外で過ごさないこと。この男に関してはそれすら生ぬるい。過去に数日雛見沢を出ただけで発病してしまったという事実があるからだ。

 「…つまりは、要注意ということだ。何か指標が必要だ。発病したのだと知らせる警報のようなものが。」
 手狭な神社の隅のプレハブの二階で雷堂が言った。ライドウはそれを夕飯の用意をしながら聞いていた。黒猫はぼんやりともう何回も見てきたテレビをつまらなそうに見ていた。
 「声だ。俺の声が聞こえているなら相当進んでいるな。」
 座布団の上で丸まりながらそういう猫に雷堂とライドウは視線をやった。
 「まぁ、そうですけどね」
 今日は暑いので、素麺です、とライドウはいいながら冷たい硝子の大皿をちゃぶ台に置いた。ゴウトに氷あげるよ、とライドウはそういって掌からゴウトに氷を食べさせる。
 「…まぁ、あの男が雛見沢から出るような事がなければいいんだがな。幸いその確率はまれだしな。」
 ライドウの掌の上で氷はぽたぽたと溶けていく。

 からん、からん、という音と共にお昼の時間は終わった。カヤの弁当をありがたく頂戴していた鳴海はふと思いついたように言った。
 「そうそう、明日からさ、俺親戚の法事で上京するから二日くらい休むよ」
 タエはそれはつまらないことだ、という風に憤慨をしていたし、カヤはそうですか、と答えた。
 「何、険しい顔してるのさ、雷堂は」
 突然そう聞いた鳴海を雷堂はふん、とせせら笑った。

 罹患する患者の取るべき行動は一つだ。
 雛見沢から離れてはいけない。