叔父さん、猫を、しりませんか?



 雨が酷い。ざあざあと地面にたたきつけられる水の音が、耳から流れ込んできては脳の中で乱反射する。ざあざあざあざあざあざあざあざあざあ。雨の音で思考が途切れる。何を今自分がしていたかを忘れる。
 「ゴウト」
 自分が絶えず囁いていた名前が雨の隙間を縫って届いたことで思い出す。そうだゴウトを捜していたのだった。数日前から姿が見えない。雷堂には言わなかった。いえなかった。ゴウトを見つけなければ。はやくしないと取り返しのつかないことが。
 ざあざあ
 「ゴウト、ゴウト」
 ざあざあ
 取り返しのつかないこととはなんだろう。何故こんなにも不安なのだろう。雨は自分を打ちのめし、額から伝う水滴が目に入っては流れていく。傍から見たら泣いているように見えるのかもしれない。けれど泣くような余裕などあるはずもない。
 何度も見る悪夢がある。それは悪夢なのか現実なのかライドウにはもう区別がつけられなかった。現実はすでに夢のように遠く、夢はすで現実のように痛い。それはゴウトが畳の上でぐったりとしている映像が、繰り返し繰り返し脳裏に蘇ってくる。硬くなった体が曲げられず、穴を広く掘らねばならないという夢だ。
 ざあざあ
 庭を掘り返している。爪に隙間に土がはいって気持ちが悪い。雨の所為で柔らかい土は、容易に掘り進むことが出来た。まるでかつて一度掘ったことがあるかのような。
 ざあざあざあざあざあざあざあああ
 ごうと
 ざあ ざ あ
 カヤさんはぬいぐるみがすきで、いつも集めている。こんなところにどうしてと思う前にかえさなければとおもう。だってこれはゴウトなんかじゃない。くろねこの、土にまみれた毛並みなんてくらやみでみえるわけがない。あれはゆめだ。ゆめ、だ。
 ごうと
 ざあああああ ざあざあ ざ あ
 雨が酷い。雨音は耳から入って乱反射し、思考は千切れていく。何度も悪夢を見る。叔父がゴウトの首を捕まえて畳に力いっぱい叩きつけるのだ。ゴウトは一声鳴いて沈黙する。叔父はそれをいやそうに積まんでゴミ箱に捨ててしまう。それを抱いて、土に埋める自分の。
 ゆめだ。あれはゆめだ。これ、だって。
 「…ゴウト」
 
 あぁ、そんなわけがない。ゴウトが死んでしまった。



叔父さん、猫を、知りませんか?