罪の意識 たくさんの夢をみるのだけれど、どう思う? 白い壁、白い部屋、白い床、白いベッド、白い服、白い人、彼は医者、俺は患者。謎かけ。黒い影、黒い猫、黒い銃、黒い鞘、黒い服、黒い人、彼は子供、俺は大人。時は違う。違う場所。しかし襲うデジャヴ。金髪の女の子がけたけたと笑う。あぁ、おじさん、河童にあったの?私はハートの女王様に会ったわ。酷いのよ、彼女はね自分の気にいらない事があると首を切るの。こういうの、その者の首をお跳ね!ふふ、似ているでしょう?ところで、おじさん、その重くて大きな電話帳は一体なんなのかしら? 見つからぬのは愛の表現であるその作法である愛はこの世に存在するきっと、あるそれはお互いを見つめあう事ではなく、一緒に同じ方向を見ることである。コギト=エルゴ=スムわれわれの全ての探求の最後ははじめにいた場所でありその場所を知ることである人間は理由もなしに生きていくことは出来ない空に真っ赤な雲の色波璃に真っ赤な酒の色なんでこの身が悲しかろ空に真っ赤な雲の色証明せよ証明せよ証明せよ万物は流転する私はαでありΩであるはじまりにしておわりである初めに言葉があった光あれ 光あれ 本当にたくさんの夢を見る。 人を殺す方法は本当はそんなにない。そうだな両手両足の指でちょっと足らないくらいだろうか。でもそんなにないと思うほど少ないわけじゃない。人を殺す方法はたくさんある。人はなかなか死なない。でも人はあっさり死ぬ。それと同じことだ。人を殺す方法はそんなにない。けどたくさんある。 こんな殺し方がある。磔にして殺す。あの神の息子の様にな。神よ、神よ、何故私をお見捨てになったのですか?自分自身の体重が足や手を裂く。でも磔にされると一体何で死ぬのだろう?衰弱だろうか、餓死?それとも失血死か?ともかくお前が人を殺すなら磔殺はよくない、あれは儀式的だから面倒なんだ。もしもお前がどうしても磔で人を殺さなきゃならないなら殺してやってから磔にしな。磔にされるんだから、もうそいつは死ぬ以外ないんだ。 夢だ ライドウが死んでしまう夢を良く見る。夢の中で死ぬのはその人からの開放を意味すると昔学友から聞いた。なるほど興味深い。けれど問題はそれを何回も見るということだ。何回も何回も俺はライドウが死ぬ夢を見る。本当に何回もだ。 坂道をゆっくりと登っている。もしかしたら下っているのだろうか。日差しはあつい。暑いのでいらいらとする。蝉がうるさい。ここはどこだろう。真っ白い砂。真っ青な海。濃い影。ブーゲンビリア。真っ赤な花。耳に届く子供の声は一体何の活動だろうと思う。あぁこれは夢か。手の中にある瓶の中に砂が入っている。珊瑚の死骸は海にもまれて細かくなって、死んでしまいそうに綺麗なあの真っ白い砂浜を作る。極彩色の鳥がなく。こっちだよ、こっちだよ。そして崖に出る。崖から見る海は日本海の暗く厳しいさっぱりとした青ではなくて、ただ底抜けに明るい碧だ。珊瑚の群生するところが黒っぽく、浅瀬はもはや緑色をしている。鳥が崖を越えてこっちだよ、こっちだよ、という。瓶の中身の白い砂は珊瑚の死骸の欠片。いいやそれは彼の骨の粉末。 それはよき日々だった。よき日々として今もある 一番綺麗な死に方?そうだなぁ、小説なんかでは身投げした後なぜか綺麗に出てきたリするよな。それを特筆して書くほどに水死体ってのは醜いんだ。崖から身投げなんかしてみろ。あたりが悪くて体がぐちゃぐちゃになってそんで水吸って膨張。最後には魚の餌だ。人間の尊厳なんて信じてるやつには勧めないねぇ。一番綺麗な死に方は凍死だな。凍死が一番綺麗だ。腐らない、変化が止まるんだ。変化が止まることが美しいのなら、時が進んでいくことは罪悪かもしれんなぁ。だが凍死は手間がかかるからすすめないね。あれは自殺の方法なんだ。少なくとも俺はそう思う。だから誰かを殺すなら、凍死や磔殺はやめな。 人は一日に何十個の夢を見て何十個ものその夢を忘れていく。だからこれらは忘れ去られた夢で、そう認識する自分すらおそらく忘れるだろう。 こっちだよという鳥の言うとおりに灰をまくと鳥は死んだ。死んで足元に落ちたのでそれを拾って羽を抜いた。ぶちぶちと抜いた。血はでないので安心した。酒を買ってこようと思った。オレンジと黒色に染まってしまったその鳥は鴆に似ている。おそらく多分そうだ。その羽を抜いて酒に浸して、そして彼に飲ませよう。きっと彼はまたですか、と眉を顰めるに違いない。けれど俺が、まぁ、いいじゃんのみなよと言えばきっと飲むだろう。毒鳥の羽を浸した酒で、きっと彼は死ぬ。瓶の中には鳥の羽、瓶の中身はもう酒だ。 なんだ結局お前は殺したいのじゃあないか。殺したいとはまたアブノーマルだね。普通じゃないって事さ。でも言うよな。愛の最終形態はその相手を食うことだ。食われることだって。だからそれと同じなのかもよ。お前は結局殺したいのじゃあないか。お前は誰だって。俺はお前だよ、鳴海。 そういう殺し方が昔中国であったんだ。毒鳥の羽を酒に浸して、その酒を相手に飲ませるんだ。舌がしびれ麻痺をして、ものすごい灼熱感があるのだって。そして四半刻もしない内に死んでしまうそうだよ。なぁ、鳴海違うだろう。お前がしたい方法はそんな事じゃないはずだ。ほら、あの少年が冷たく横たわっているけれどお前は何も感じないだろう?そんなに泣いても無駄さ。だってお前が掻き抱くその体はお前の妄想の産物だもの。でもそう、そのこちらを見つめる驚きのまなざしが痛いのだから、少年の瞼くらい下ろしてあげなよ。だらりと落ちる腕は扇情的だね。お前には死体愛好家の趣味まであったのかい? 欲情していないと、お前は本当にいえるか? 寄りかかるからだは冷たいので、やったことを後悔する。今ここにあるものを喪失させてしまったというのは思いのほか心のうちに沈むものだ。神さまなんて信じていない。死後の世界なんかあるはずもないと思う俺は(デビルサマナー、ゴウト、悪魔の存在はそれはそれで世界の摂理なのだと納得している。もう一つ向こう側の世界、という意味で)その喪失の大きさに驚く。酒を飲ませなければ良かった。直前まで何の話をしていたのかもう思い出せない。けれどたしかにひそかな興奮が体の底をひたひたと濡らしている。ライドウ、と呟く。彼は答えない。びっくりするほどの罪悪感が己を責め立てる。けれど反面、なんて面白いのだと思っている。面白い? ライドウ、俺は君を殺す事がおそらく好きだ。 一番いい殺し方?そりゃ絞殺だ。だってここは夢だもの。綺麗に死ぬよ?鬱血もない舌もだらりと垂れない。そりゃもう凍死並みに綺麗で、面倒くさくなくてお前が一番気に入るだろう殺し方さ。だからおやりよ、一度でいいから。きっとお前は気に入って、そしてその夢を覚えているだろうさ。ねぇ、知っているかい、磔にされると窒息して死ぬのだって。 首を絞めるとき一番気をつけるのはその表情を見逃さないようにすることだ。首を絞める。空気が入っていかないその顔は酸素を求めて歪む。ぱくりと動く唇はきっと酷く淫猥だ。空気がのどに詰まる音、歪む顔、赤らむ頬、表情をもっと変化させたくてお前は首にかけた手に力をこめるんだ。むりやり息をしようと喉がぜいぜいひゅうひゅうと鳴るのは、本当に妙なる音楽さ。少年は掠れ気味にお前の名前を呼ぶ。まるで情事の最中みたいにな。あぁ、いい加減気付けよ、鳴海。お前は少年とやりたいんだ。なぁ、早く認めちまえよ。夢の中とは言えこんなに殺されるのはかわいそうだ。ライドウが、かわいそうだ。 本当にたくさんの夢を見るんだ。 私もたくさんの夢を見るのよ。鏡の向こう側の国で白い騎士に出会ったの。忙しがる兎の首をちょんぎらなくちゃ。だって兎は時間に遅れてばっかりだもの。その者の首をおはね!なんてこと私はしないわ。私はこの手でこの鋏であの兎の首をちょん切るのよ。きっと中のイラクサとオガクズを掃除するのが大変だわ。 アリス、アリス。ライドウは生きているかい。 おじさん、自分で確かめなさい。夢も現実も病院もお兄ちゃんも本当は全部おじさんの手の中よ 白い人は医者。俺は患者。 黒い人は少年。俺は大人。 瓶の中身は毒。いいや彼の骨の粉末。いいえおそらく罪の意識。 |