セーラー服と機関銃





 確かに多少憧れがあった事は否定しないわ、とネコ娘は思った。紺色の生地に大きな襟、胸元は逆三角形に開いていて、襟には白い線が二本。スカートはひだがあって、丈は短めだ。つまりはセーラー服。短い袖から伸びた腕も、スカートからすらりと出ている足もまるで私のものではないみたいだ。身長は少しばかり伸びて、胸は膨らんでいる。推理小説にこういうのあったなぁ、とも思った。手には機関銃だ。で、目の前には妖怪に囲まれて困っている鬼太郎という図。
 なんていう予定調和。くらりと眩暈がする。これが自分の願望だとしたら全く恥ずかしい限りだわ。鬼太郎は片方だけ見える右目を見開いて、ネコ娘!だなんて叫んでるし、髪の間から見えてる親父さんは、どうしたんじゃなんて呟いている。全くその通りどうしてこんな事に!鬼太郎がこの姿をみて私だとわかるのはきっと、前、にもこんな事があったせいだろう。こんな事、というよりもつまりは私が大人びる事。
 ねずみ男、次にあったら覚えてなさい、と私自身が覚えていられるかどうか良くわからない事を思って機関銃の引き金を引く。イングラムは私の肩には食い込まない。機関銃は想像もつかないくらい軽い音、鬼太郎の鞭と同じくらいだ、で回りの妖怪を退ける。発射サイクルが早すぎて制御が上手くいかないのを力で捻じ伏せる。
 もっとも妖怪にはこんなつまらないものが効くわけがないのだ。イングラムM10、分1050発。ねずみ男の持ってくるものは便利だけれど場違いなものばっかりだ。でもそんなつまらないものでも、鬼太郎の立て直しくらいには役に立つ。軽い音と面白いほどに退く妖怪たち、どうせなら足手まといになるよりは役に立ちたい。妖怪に絡め取られるよりは、役に立たない援護だけでもやりたい。撃ち終わったら全部捨てて、鬼太郎の元に駆け寄ろう。そのときまでには元に戻っているだろう。それは少しばかり残念だ。
 でもそれにしても、なんという快感。

 それにしてもなんていう光景なんだろう、と鬼太郎はため息混じりに思う。頭の上で父親が天地鳴動な勢いで驚いてはいるけれど、鬼太郎としてはそれを通り越してもう既に呆れている。そういえばねずみ男があとでびっくりするようなもんを、と言ってはいたがその言葉自体に間違いはなかった。全く驚くにも程がある。セーラー服を着た大人びたネコ娘が機関銃を携えて、感動するほど暴力的に妖怪たちを退けている。もっともそれは妖怪としては不意打ちでつねられたくらいの痛みしかないのだろうが、その速度には目を見張るものがあってなかなか近づいてこれないみたいだ。
 ネコ娘のその姿は普段と全く違って鬼太郎の目には新鮮に見えた。体勢を立て直して、妖怪に向かっていく頃になると、機関銃の音はやんで変わりに、ネコ娘の吐息まじりの声が聞こえた。その言葉に鬼太郎は、本当にまったくその通りだろうと思った。