Once upon a time,there is forest where monsters
live. 踊るように快活に喋るねずみ男を鬼太郎は半眼で見つめていた。鬼太郎のその視線にねずみ男は気づくと(というよりもむしろそれは鬼太郎の視線を前より、より強く意識して、といった風にすぎない)よりいっそう激しい動きで喋ろうとする。ぎしりぎしりと床板がきしむ音が家の中に響き渡る。 「そんなに暴れるなよ、一体なんだっていうんだ」 鬼太郎の言葉に待ってました!と言った具合にねずみ男は両手を打って答える。いまどきっていうのはほら、グローバルスタンダードな時代だろ、といっている本人もわかっているか多少疑問のある前置きとともに機関銃のごとく喋り始めた。 「外資系の企業もどんどん日本にはいってくるしよ、移民も減らないどころかお上も受け入れる方向にうごくらしいじゃねぇか。となると重要なのは意思の疎通だぜ!会話なくして商売はなりたたねぇからな!そこで共通語ってのが重要になるだろ。なにかつーと英語だよ、英語。これからは英会話を教えるなんてもんが流行るに違いないぜ。そこでよ、一発やってやろうとしてな、ちょろっとよ」 本気でやる気はないんじゃな、と目玉の親父が茶碗風呂からちゃちゃを入れるとねずみ男は当たり前だろと言った。 「だいたい妖怪で言語がつうじねぇとかねぇじゃねぇか。あくまで人間相手のお話よ」 しかし、人間ってのは不便だねぇ、としみじみと呟いて、その後大口を開けて笑った。いやいや、それでこその金儲けよ。 「で、なんでまた家にやってきたんだ」 鬼太郎がいやいや問いかけると、ねずみ男はそれよ!と叫んで鬼太郎の顔に指を突き刺す。鬼太郎は指を右手でのけながらそれって何だ?と聞いた。 「妖怪が教える、英会話ってのどう思うよ?」 一瞬降りた沈黙は冬の寒さをねずみ男はははは、と笑った。そうして様子を見るように、何かを言いあぐねているのを鬼太郎にはわかったが、無視をしてちゃぶ台の上の茶碗に使っている目玉の親父に声をかける。 「…とうさん、湯加減はちょうどいいですか」 「ちょっとお湯を足してくれると嬉しいのう」 そうですか、と鬼太郎は満面の笑みでやかんをかまどにかけるために席を立つ。ねずみ男がおいおい、ちょっと待てよ!と鬼太郎の手をつかもうとするがつかむ前に鬼太郎はひょいとその手をよけた。 「というか、よくそんな下らない事、次から次へと思いつくよな、お前」 「金は天下の回り物。回すのはアイディアだからよ。思考は至高の宝ってね」 「お前はつくづくしょうもないなぁ」 しゅんしゅんと湯気を立て始めるやかんをかまどからはずして鬼太郎は茶碗に湯をたす。目玉の親父の良い湯じゃ、という呟きに鬼太郎は優しくそれはよかったです、と返した。その様子を横目に見ながらねずみ男は、おっともういかなけりゃと叫んだ。 「まぁ、考えといてくれよ、それじゃあな!」 そういうと鬼太郎が何かを言う前にねずみ男はあっという間に走り去ってしまった。扉代わりにひっかけてある暖簾がねずみ男が出て行った証とばかりにゆらゆらと揺れていた。その様子を見ながら目玉の親父は温かい風呂に使ったままで、相変わらずじゃのう、と呟いた。 「またやってきますかね、父さん」 「どうせすぐ忘れるじゃろう」 茶碗から立ち上る湯気に目を細めて、目玉の親父が言うのに鬼太郎は同意をして、やかんを片付ける。それからしばらく熱心にねずみ男は英語をしゃべりにやってきて鬼太郎たちにうっとおしがられていた。 |