鬼太郎習作





 何を考えているんだい?何を考えているの?何を考えているんじゃ?何を考えてるの?お前は自慢の息子じゃのう。何を考えてんのさ?何を考えておるのだ。
 何も。何も、何も。
 生まれてこの方何年か。何百年ではないけれど、十何年ほど短くない。小便くさい餓鬼とは言うが、あなた方より年上さ。三百とまた何十年生きた男が言う。まだまだ餓鬼だね、世の中をしらねぇ。人と妖怪は分かり合えないのさ、分かり合えないのだ。千年、二千年、なお超えた化け物が言う。この土地は私のものだ、お前らなどお前らなど、たった百年も生きぬ、ちっぽけなちっぽけな生き物のくせに。湿って薄暗い土地を剥がし、混ぜ、捨て、そこに骨に堪えるほどに冷たい鉄骨を差しいれ、吐く言葉は金、金、金、金。


 ではどうして何も考えていないの?
 どうしても、何も、考える事などありはしない。
 母は殺されました。父は病で死にました。母の胎内、安穏と、生まれ出る前の楽園だとどこかで聞いたけれど、それは一体何の話なのでしょう。冷たく湿って濁った、緩んだ腹の中、股の間から出たのだか、腹を破って出たのだか。空から降る雨は冷たく、鳴る雷は自分の泣く声を打ち消す。母は人間に殺されました。父は病で死にました。目玉が一つ転がっていました。父さんだ。
 一括りには満たない年月、人の下に居ました。たった百年も生きぬ、ちっぽけなちっぽけな生き物。吐く言葉は金、金、金、金。母は殺されました。父は目玉のままで言います。鬼太郎、お前は良い息子だ。
 いつ間にやら正義のヒーロー、手紙を読んではあっちやこっち、飛び回っては断末魔。おのれ、おのれ、おのれ、おのれ!ここは私のもの、住んでいた場所、おのれおのれおのれ、ぎぃゃぁあああ!
 助けているのはどうして?助けるのはどっち?正義の味方って何でしょう?妖怪と人間の架け橋、下駄を鳴らしてカランコロン。たすけにきたよ、もうだいじょうぶ。育ての親のあの人はいまだ地獄でうなってる。多分ね。


 ほら、考える事などありはしない。 多分、何も。
 ごめんね、父さんが呼んでるから、
 もう、
 行かなくちゃ