ぼんやりしてる横顔です。あまり表情は変わりません。変わるのになれていないというよりは、むしろそっちのほうがらくだからこうしているのだとでも言うようです。いつも遠い目で何かを考えています。高いところが好きです。赤い屋根の上に一足飛びで飛び乗って、遠くを見ています。朝日とか、その山の向こうまでです。でも、ぼんやりと見てるわけではありません。朝日の向こう、夜の向こう、山の尾根の更に先、見えない場所を見つめようとしている横顔です。
はりつめていて無表情です。目は鉄みたいな薄い灰色です。がらんどうのがらくたみたいです。あまりに張り詰めているので、少し痛々しく、憂いを帯びているように思えます。もしくは焦っているか、もっと言えばおびえているように。彼の顔は雰囲気に似合わず存外幼いです。黙っているとわかるのですが、彼の口からいつも嫌味のような小言とか、的確だけれども言い方がいまひとつ、な言葉があふれているので惑わされます。なので、朝方、夕方、夜、誰もいない昼間、見られていると気づかないで遠くを見ているとき、だけ、彼はその思いのほか幼い顔を無防備にさらします。 でも馬鹿みたいに張り詰めているから、中々わかりにくいです。鼻はそれほど高くなく、彫りが深いわけでもありません。格好いいかといわれたら、それはまぁ、格好いい部類に入るのではないでしょうか。馴染んだ顔の美醜や優劣は中々つけられるものではありませんが…私から言わせて貰えば、彼は格好いいはずです。だって……まぁ、身内の欲目のようなものですからおいておきましょう。 私はけれど、彼の外見を厭います。その髪も、その目も、その肌も。傷だらけの体も、何もかもを厭います。愛しいけれど、それは副産物のようなもので、彼個人に抱いているわけでは、きっとないと思うのです。けれど彼がぼんやりと存外幼い横顔をさらすものだから。 助けたい、とか、思ってしまいます。日常の、穏やかな中で考えないように、意識しないようにしていた事を考えて、あの人がたまにするように困った顔で笑ってしまいます。本当に、その顔はそっくりです。同じ人間だから、まるで、まだ何も決められず、助け出せず、抜け出せず、ずっと、雨の空を見上げているみたいな寂しい気持ちになります。今度は誰も、助けになんて来ない、のではないかと。私も姉さんも、あの人も、そこまでなんて誰もいけないのですから。 日々は平穏です。時々、憎悪の波にさらわれててしまうけれど、おおむね平穏です。生きていく重さは日々増えていくばかりです。それでも終わりがあると知るから、それに向かって、鈍い足を動かしています。私の手を取ってくれる人はたくさんいるのです。彼、もその一人で。 でも私も姉さんも、あの人も、手を取ることはできない。 無防備な横顔にそんな事を考えます。がらんどうのがらくたみたいな瞳の上には、何にも知らないような色をした、白い睫が生えています。光に透けると綺麗で、私は好きだけれど。でも、だからそれがなんだというのでしょう。彼が本当にがらんどうのがらくたで何も知らなければ、よかったのにと、愚かにも私は考えるのです。 その横顔があんまりにも幼くて、先輩にそっくりだから。 |