世界の終わり





 私は彼を救いたかった。それはもう、ものすごく強くすくいたかった。たとえ彼がただの現象で自意識など欠片もなく、どこか遠いところで磨り減っていくのだと知っていても。むしろ知っていたからこそ、彼を救いたかった。
 救いなんてものは別段、誰かに与えられるものじゃない。自分で救い上げなければ意味がない。でも、そんなものが不可能な位、貴方のいる場所は寂しく、果てなく、乾いている。あの朝、だんだんと空気が青くなって、そうして白く光っていく冷たい夜明けに、彼が笑って私に言った答えは彼の元には戻らない。
 それは記憶にはならない。ただ記録になって、感情は抜け落ちて曖昧になり、彼は自分を憎んだままかもしれない。もしかしたらそうではないのかもしれない。あの答えは世界の外にいる彼にもしかしたら届いたのかもしれなくて、もしかしたら彼を変えたのかもしれない。
 それでも私は彼を救いたい。ただ私の為に救いたい。それともただ会いたいだけなのかもしれない。もしも答えを得たとしても、磨り減っていく彼をわずかの間止められても、彼は自意識のない現象としてこれからも世界に使役され続けるし、それは人類がいなくなるまで止まらないのだろう。
 平行世界は無限にあって、彼が平行世界すらまたぐ存在ならこの行為には何の意味もなく、むしろ彼を苦しませるだけだろう。だからこれは私の罪、私の咎。全ての人間は私を憎めばいい。それはもうかけねなくどこまでも。
 私は世界を滅ぼす事に決めて、そうしてそれを実行したのだから。
 人類の無意識が使役する抑止の守護者、は、もちろん私を止めに来た。私は彼でない限り、守護者を打ち倒す。人類を滅ぼして、魔法を手にして、彼を待つ。私は考える。人類がまさに最後の一人になって(私一人になって)そうしてやっと彼はやってくるのじゃないだろうかと。彼をころす為なら、私は自分を殺す事もかまわない。星の守護者はやってこない。すでに人間は害悪にすぎない。これは自滅ではなく、殲滅だ。
 盲目なまであんたを救いたくて、会いたくて、私は人類を滅ぼす。