それは陽だまりのように暖かい感触をしていた。だから私はそれを抱く彼自身がひどく幸せな時を過しているのだと思っていた。いや、事実彼はとても幸せなのだろうけれど、そうではなくて、そう、誰からも見ても幸福に思える、そんな時間を過しているのだと思っていた。
季節は初夏で、大体は昼先、姿は見えないけれど、そういう時大抵彼はどこかで横になって目を瞑っているのだ。寝なくてもいい体をしているはずだけれど、もしかしたら寝ているのかもしれない。私と彼のつながりは前よりも少し薄い。 けれどそれを補ってあまりあるほど、その感触が暖かだから、だから彼は幸せなときをすごしていると思っていた。例えば小さい子猫の面倒を見ているときの満ち足りた気分、例えばやる事が山積みの時の充足感、例えば気を許せる人間との美味しい食事とか、そういう他愛のないもの。 幸福は彼にとってまるで劇薬のように思えるらしい。劇薬、というよりも胡乱、不誠実不確実、曖昧、守らなければならないもの、自分にあるものではなく、目の前にあるべきもの。彼にとって苦痛は敵ではない、孤独も慣れている、裏切りはもはや既に裏切りではなく習性に過ぎない。裏切るものがすくわれるなら彼はそれをいとわない、むしろ幸せにさえ思うだろう。私はいやだ。それはいやだ。頑張ったものが報われないなんて嘘だ、と少年は言ったけれど私も強くそう思う。現実がそうではないのだから余計に、頑張った者が報われないなんて嘘だと思った。 だからその半年と、永遠に続くように思えた四日間は、彼にとっては幸福なのだろうと私は思っていた。薄くなったつながりから時折流れ込む感触は、泣き出しそうなほどにそれはそれは暖かだったのだから。だから私は彼があの金髪の少女や、あるいはにぎやかな教師や、いけ好かない真っ白な少女、あるいはあの街にある色々と馴染んで幸せになっていると思っていたのだ。 幸せ、と安っぽくなってしまうほどに何度繰り返しても足りないぐらい、私は彼の幸せを願っていた。祈っていた。少年を想うくらい切実にそうであって欲しいと信じていた。 あの可憐な少女ならこういうだろう。吐き捨てるように、でも優しく、だから貴方はダメなのです、ここ一番で勘違いをする。まったく罪の告白にあんなに向かないシスターもいないだろう。私は思わず自嘲しそうになる。ただ、私はそれを知っていてもやはり、どこかで眠っているだろう彼の、暖かな感触を唾棄したい。そうではない、と叩きつけてやりたくてたまらない。 あぁ、ロンドンの秋は、酷く冷え込んでいる。 |