081227 天国的なところです。花京院と徐倫、と承太郎 どうしていつも自分には最良の道具がないのだろうと花京院は手の中の重みを感じながら考えた。考えている暇がないのだとわかりつつも、考えずにはいられなかった。いや、暇がないのでない。だがやれることといったら、吐き出された薄いそれを懸命にふることくらいしかない。大体それをやったところではやくなるわけでもないのくらい、花京院は知っている。 歯を食い縛ると、ぎりと音がなった。 ふと見ると向こう側で徐倫が笑っている。 「ねぇ、花京院」 わかったでしょう?と彼女は手の中の薄く小さなものを撫でながら呟いた。その姿はいっそあでやかで、花京院には憎らしい。 「時代の進歩ってこわいわね」 「…もうすこし静かにしゃべったらどうだい、徐倫」 「そうね、父さんが起きちゃうもの」 徐倫はそういってまた、手の中のものを構えた。花京院にはあれが目的をかなえるものとはどうしても信じられなかった。だが、それは目的を的確にすばやく、大量にかなえていく。 自分といったら徐倫に比べて惨めで、的確ではあろうが、すばやくもなければ大量でもない。おまけに時間はかかるし、嫌なことだらけだ。花京院は歯噛みをして、呟くようにいった。 「…デジカメってなんだよ…!」 花京院の言葉に徐倫はあざけるように笑って小さな声で答える。 「ポラロイドカメラなんて、物好きなやつが使うか、さもなければアンティークよ、花京院」 彼ら二人の目線の先では、承太郎が猫に囲まれて寝ていた。 081220 みんなでパイ投げしたらいいよin四部。この承太郎さんはサーフィスです。 広瀬康一は杜王町の大通りを駅に向かってまっすぐ走っていた。駅前が見通しがよく、遮蔽物がないということを頭で理解はしていても、後ろから響いてくる固い足音に逆う事は難しかった。もともと歩幅が違いすぎて、走っている自分に対して相手は無表情で少し早足といったくらいだろうか。言葉で追われていないだけ、心の中では恐怖に近い物がわき上がった。 下卑た笑い声ならば、自分を叱咤する素になっただろう。だがそれさえなく、冷静に冷徹に、相手は距離を詰めてきていた。走っている自分の体はそろそろ限界で喉の奥が乾いて冷たい。 頭のすぐ後ろで息を吸う音がした。 「康一君」 ぐっと、悲鳴を飲み込めたのは現れた瞬間にスタンド攻撃を仕掛けようと思っていたからだった。スタンドによる重傷は無効でも、スタンド攻撃が禁止されているわけではない。おまけにエコーズに致死性のある攻撃はほとんど出来ない。つまり能力は制限されていないという事だ。 「く、らえっ!」 音もなく顔の半分に張り付いた文字に、しかし相手は眉をしかめただけだった。それからゆっくりと張り付いた文字に指を這わせて、口の端を上げた。 「スタンドか」 熱は少し苦手なんだが、と相手、承太郎は静かに呟いた。 「さて、康一君、そろそろゲームオーバーだ」 にっこりと笑う承太郎の手には、真っ白いクリームの乗ったパイが優雅に乗せられている。 081220 おでん食べる三部花京院と承太郎 そこは朝焼けの海辺だった。夕焼けの砂漠で、雨のふる海だった。霞のような桜が咲く場所にかかる橋で、おでんを食べていたのだった。 「おでん」 「昆布がうまいな」 よりによってなぜおでんと思いながら、見たままを呟くと横に承太郎が居たので驚いた。やっぱりおでんの器をもっている。コンビニのあのビニールのやつだ。割り箸でおすと線がひけるやつ。その中に箸をつっこみながら、器用に昆布をすくっている。あの結び昆布って箸で取るの難しいよね。 「日本?」 「さぁ?」 頭の中でいろいろな疑問がかけめぐり、あれそもそも自分はエジプトにむかう旅の途中じゃなかったっけと首をかしげて承太郎にそう聞くと、承太郎も首をかしげた。 「食わないのか」 へ?と聞き返すと、承太郎は割り箸でそれと花京院が持っているおでんをさした。牛すじとたこと、たまご、大根、餅巾着、ちくわに、まぁ豪華なもんだ。 「牛すじとか邪道じゃないか?」 「え、承太郎のとこいれないの?」 うちは入れるんだけど、と返すとうまいもんなのかと返された。 「今度買ってみたらいいじゃないか」 「エジプトにおでんは売ってねぇだろ」 そもそもあついしなぁと言いながら、今度は大根を食べている。桜の花びらが風にあおられて吹いているのに、コンビニおでんの中にははいることがない。不思議だけど便利だ。 081220 手紙/四部ちょっと後の花京院の家へ行く仗助 部屋の中は綺麗に整理されていた。駅から歩いて10分くらいの、日当たりのよい部屋だった。窓も汚れていなかったし、そこにかかっているカーテンは青い色をしていた。遮光性のものでないのか、窓際においてあるベッドの上に、青く色づいた光が投げ込まれていた。 仗助はそれを見て、最初に海のようだ、と思った。 枕元には幾枚かの写真が飾られていた。水の中でどこまで続くか分からない深い海溝や、遠くに見える大きなクジラの横腹、雨の日の深い緑の色をした海に紛れてひかっているイルカの背、霧でかすんでいる陸地、水平線に消えそうになっている小さな白い船、甲板に横たわったアシカの上に雪が薄く降り積もっていて、夏だというのに仗助は寒そうだと思う。 どれもこれも海の写真だった。人は一人も映っていない。ただ写真があるのだから、撮った誰かがいたのだろうと、それだけを思わせた。 部屋はきれいに整頓されているが、生活感がないというわけではなかった。使いやすい所に使いやすいようにものがあり、それが結果的に気持ちよく目に投げ込まれている感じだった。浴室の棚にたたまれたタオル、洗面台の磨かれている鏡、陶器のシンクは薄い緑色をしていて、食器棚に並べられている食器たちにはほこりもつもっていなかった。 人一人が暮らす分だけの、過不足のない部屋だ。 だからそれはひどく目立って、仗助の目を引き付けた。キッチンのテーブルの下に、銀色の大きな缶がひっそりとおいてあった。仗助は一瞬、それをそのまま荷物としてまとめるか、中を確かめるべきか躊躇をして、結局はあけることにした。 蝋でも塗ってあったのか、音もなく缶はするりと開いた。 中にはきれいに折りたたまれた、大量の手紙が入っていた。 |