コネタ
0530 多分、花→承?意味不明です! 何にもないのだと言った彼は泣いているように見えた。それは嘘のように思えた。彼は何もかもを手に入れているように少年には思えたし、またそれも事実だった。彼はあらゆるものを持っていた。あるいは将来持たされることを約束されていた。大抵の人間が欲しがるもの、例えば金や容姿や賢さ強さ、正しさ、愛情、自信その他もろもろ。誰もが必要として、誰もが手に入れるのが難しいそれらを彼は手にしていた。もしくは将来持つ事を約束されていた。 「それは、ねぇ、あまりにも君らしくない発言だ」 これは夢なのだろうかと少年は思った。おそらく夢だろうと確信をした。彼はその言葉にただ寂しそうに笑って、また繰り返した。何もないのだと。何もなくなるのだと。そう納得してしまったのだと。 「ああ、その言葉はもしかして君らしい発言だったのかもしれない」 少年は前言を撤回し、そう答えた。だがそれでも彼の言葉も表情も変わらなかった。彼が変化するにはもうすでに時は遅すぎたし、それに少年は死んでいる。彼は少年と同い年であるから、彼もある意味過去の残像にすぎなく、少年と等しく同じ意味で死んでいる。一人遊びに似ていると思う。人形相手に少年は嘆いたり悲しんだり憤ったりしていた。人形はしかし、人間に似ているのだから、目の前の彼も、現実の彼と同じだという事もありえなくはない。 全ては等しく詭弁であるが。 「何もないのだということを受け入れよう、これから、納得しよう、そうして」 生きていこう、と彼は言う。 彼は大学に入り、恋人をつくり結婚をして、子供が出来て、学者としてそこそこに認められ。 「手にしたものをこぼさないために?」 「いいや、何かしら、もしかしたら何もかも、こぼれていくかもしれない」 だがそれでもいい、と彼は言う。抵抗をしよう、抗おう、全力を尽くそう、最善を求めよう、だがそれでも。 「何もない事を受け入れよう。そのことに憤ろう」 彼の言葉に少年はしばらく沈黙してからおそるおそる口を開いた。 「君の何かを、僕は傷つけただろうか」 少年は彼にそう問うた。今まで幾度となく思った疑問だった。彼はあらゆるものを持っていて、持つことを約束されていて、強く正しく尊かった。神話の英雄のようにさえ思えた。 彼は少年の問いに少し考え込んでから、帽子のツバに手をかけて口癖をつぶやいた。やれやれだぜ。 「やれやれというよりも、僕はほとほと困ってる」 「誰だって傷つくし、傷つけられる。お前だけじゃないし、俺だけでもねぇよ」 投げやりな口調だが、誠意は篭もっていると少年は感じた。実際のところはどうだったのかわからない。少年は死んでいるし、彼は生きていて、少年の前にたつ彼は人形みたいなものだから意味がない。 一人遊びがすぎるなあと少年は思う。 「そうであったらいいなぁって僕の願望だろうね」 君の魂に傷をつけることが出来たら、なんて。 「何にもねぇよ」 何にもないんだと、彼は繰り返し口にする。少年はそれに同意をする。君の手のひらや心のうちではなくて、ここには何にもない。 「何にもないよね」 けれども少年は同意する。その言葉が何を意味するかなど、考えないまま。 0430 エロ風花承 「…う…ぇ」 薄く開いた唇から、赤い舌が見えている。ゆっくりと突き出されていく様は誘われているみたいだ。脳みそから背骨をつたって一直線に快感が降りていく。胸が躍る。興奮をする。想像だけで勃つだなんて馬鹿みたいだ。想像だけっていうのもこの場合違うかもしれないけど、でもだってねぇ。しかし男は単純な生き物です。君も、僕も、ねぇ、そうだろう、承太郎。 「…ぁう…」 ひゅうひゅううるさい喉から時折こぼれる声が喘ぎ声みたいで、本当に興奮するんだけれど、それじゃあ自分がただの変態みたいじゃないかと花京院は思う。顎があがって、開かれた唇は震えている。触りたいけど、今は両手がふさがっている。 「抵抗、してもいいよ?」 あぁ、でもスタンドはなしだよ。だって死んじゃうかもしれないし、と笑いながら言うと、血がなかなか回らないだろう頭でスタンドを引っ込めてくれた。承太郎の頭の回転は、めぐりが悪かろうと変わらないらしい。だって僕は仲間だし、これもただの、なんだろう旅の憂鬱が引き起こした癇癪みたいなもの?だと解釈してくれてるのかも。なにせ僕は君の恋人だし、僕と君が普段やることなんてもっと無体に違いない。 苦しさからか、瞳に涙が浮いている。酸素が足りないのかちょっと焦点が曖昧だ。瞳孔の輪郭に沿って濃くなっていく緑が綺麗で、触りたいなーと思う。承太郎の体は触りたいところだらけだ。枕元に転がっている帽子に普段隠されてる癖のある髪の毛だとか、頬だとか、唇だとか、舌だとか、足だとか、腕だとか、僕が今力の限り締めている首だとか。まったくネコの手も借りたいってこういう時に使うものなのだろうか。 「…く…ぁはっ」 いい加減誘われている気がしたので、手をどけると承太郎は解放された喉を鳴らして酸素を吸う。一度、二度、胸が大きく上下しているのにかまわずに引っ込められた舌を残念に思いながらキスをする。軽いものを一度、唇は乾いていてなんだか可哀想になって舐める。呼吸の邪魔をされて、承太郎の眉が潜められる。 かきょういん、と呼ぼうとするために開いたのだろう口にむりやり舌を滑り込ませる。がつっと肩を掴まれるが、本当に嫌ならばもっと前の段階で殴り飛ばされているから大丈夫と勝手に結論づけた。 せわしない呼吸のせいでちょっと乾いている上顎の内側をなめるとびくりと肩をすくませた。舌を絡めとるとすこしざらざらしている。ネコみたいで面白い。鼻から抜けていく甘いくぐもった声に、いたく情欲を刺激される。 0409 god/anotherの流れで四部にいったのが花京院だったら。キャラ崩壊はげしいよ! 彼曰く、承太郎は本当に正しい人だったよ、と。 東方仗助は空条承太郎という人間のことを知らない。仗助の父であるところのジョセフ・ジョースターの孫。血縁でいうならば甥。写真を見たことがある。これが君の父親のジョースターさんと彼は言い、仗助は若いと呟く。その隣を指差して、これはフランス人のポルナレフ、ジャン・ピエール・ポルナレフとフルネームを呟く。銀色の髪をずいぶんとパンクに立てた陽気そうな人間だ。隣はアヴドゥル、占い師だったよ、その足元のがイギーってボストンテリア。コーヒーガムが好きでね。彼の口から滑らかに滑り出す言葉は全く空虚だ。そこに信用と親しみは存在しても、信頼など欠片もない。 彼の指は写真の上をしばらくさまよってから、一人の人間を指す。彼が空条承太郎だよ、と呟く。呟いて花京院典明はおしまい、と結んだ。 ジョセフの話す陽気な旅の話と、全く同じことを花京院は仗助に喋っているにも関わらず、仗助にはその話は憂鬱なものに聞こえる。 「行方不明?」 「うん、そう行方不明。DIOを倒した後に消えちゃったんだ。だから、どうなんだろうね、生きてるかもしれない。死んでるのかもしれない」 ジョースターさんの落ち込みようは本当に酷くてね、と花京院は穏やかに付け加える。彼の母親、つまりジョースターさんの娘さんだけど、スタンドの害から解放されて回復した後もしばらく塞ぎこんでいたよ。 花京院の声は明るく陽気で空々しかった。ぱっくり開いた暗闇のような声音だ。ひどい人間だよね、と笑う。行方不明だなんて、どっちつかずな。 「花京院さん、は、どっちだとおもうんすか?」 生きているのなら年上の甥。一回りちがう筈の写真の中の血縁。仗助は空条承太郎という人間を知らない。そしてその事実を花京院はわずかに疎んじているのだろう。そういう人間がこれから増えていくことさえも。彼らを包む空気に親しみと信用はあっても、信頼など存在しない。 花京院は薄く笑う。 「死んでるよ」 明るい声だった。仗助はあっさりと死を告げるその言葉になにか薄ら寒いものを感じながら、何故?と問い返した。 「霧雨みたいな雨のふった次の、馬鹿みたいに晴れた日に」 行方不明の彼の死をまるで見てきたことのように語る。 「きっとね」 花京院は仗助の表情に気がついて薄くはりついた笑いを優しげなものに戻す。そうして写真を静かにしまった。 「まるで見てきたように、いうんすね」 「本当に」 まだ初夏にもさしかからない杜王町の風は冷たい。花京院は風に頬を撫でられながら、呟く。 「彼が死んだその時が、いつだったのかわかればいいのにね」 写真の中で五人と一匹が嬉しそうに微笑んでいて、それでも東方仗助は花京院典明のように、空条承太郎を知らなかった。 0326 シアーハートアタック/承太郎 あの時を後悔しているかと問われたらなんと答えるべきか、承太郎にはわからない。でも多分、どんなに何度考えたとしても、彼を助けることは出来ない。それはその事実がもう過ぎ去った過去にあるからではなくて、あの時どんな状況であったとしても、彼はそれを行っただろうという事だけがわかる。そして自分も止めはしないだろうという事も。 だからか、と問われてもやはり承太郎には答えられない。こぼれていく命はどれも等価だ。取捨選択に迷ってきた記憶はなかった。体が冷たくて、喉から逆流しているのが血液なんだということが、ぼんやりとわかる。肺が傷ついたんだか、それとも内臓をいためたんだか、いや、この状態ではどちらも変わるまいと思う。 うっすらと瞼を上げると視界にもやがかかっている。頭の後ろが冷たくて、眼球にまで血がめぐらないのかもしれない。クレイジー・Dのその能力を優しいものだと承太郎は思う。あの日にあればという問いに承太郎は首を振る。仮定に意味はない。 「いや、君は」 精神的には勝っていたぞ、康一くん 血液が口内で粘つく。肺が傷ついて息がしづらい。たとえば広瀬康一のその状況に、花京院典明を重ねることは簡単だっただろう。それに意味はあるのかどうか。振り下ろす拳の強さに、いくらかの力が篭もるのならば、やはり意味はあるのだろうと承太郎は考えた。 殺人鬼は平静な顔をして、承太郎を見つめる。 |