第六夜/DIOとジョナサン
こんな夢をみた。 金髪の男が雨の中を傘も差さずに歩いていた。ひどく美しく精悍な男で、真っ暗な雲を何度か見て忌々しそうな顔をした。それは雨を激しくもたらしているあの暗雲が憎いというよりも、何度も雲を確かめて太陽が顔を出さないかを確認しなければならない己の身体に向けてのものだったのかもしれない。 「雨は、長く続くぞ」 「それは僥倖だな」 金髪の男の名をDIOという。DIOはもう一人の男の手を引いていた。手を弾かれている男は目を閉じたままDIOに言った。手をひかれている男の名を承太郎という。二人は激しい雨にふられながら、ただ歩き続けていた。 承太郎は目を閉じたままだったので、いくらかおぼつかない足取りで、その度にDIOがわずらわしそうな瞳で彼を見た。かちかちと、懐中時計が時を告げ続けていて、時刻は二時前を指している。 「お前は何故目を閉じて歩いている」 「盲目だからだよ」 その言葉をDIOは初めて聞いたと思い、いつからお前は盲目だったと聞き返した。すると承太郎は目を瞑ったまま笑って、随分昔からさと答えた。 「少なくともてめぇに出会う前からだ」 そういわれるとそうだったような気もした。DIOがであったときから承太郎は盲目でこうやって雨の中手を引いて歩くのも初めてではないような気になった。 「そうか」 「そうだ」 雨は長く続くと承太郎は言ったとおり、全く止む気配はなかった。舗装もされていない道はぬかるんで歩きにくく、DIOは幾度も足をとられそうになった。DIOの後ろに続く承太郎といえば、おぼつかない足取りではあるものの歩きにくくはないらしく大人しく手をひかれ続けている。 進み続けると分かれ道にたどり着いた。一つは日の当らぬような森に続いており、一つはどこにもつづかぬような海に突き当たっていた。どちらに行こうかとDIOが迷っていると承太郎が呟いた。 「左だろう。海に続いている」 「海か、どうしてわかる」 「鳥が騒がしい」 言った途端に雷がひかり、空から鳥が落ちてきた。真っ白なそれは鷺で、だがぬかるみにまぎれてすぐに見えなくなった。鳥がいたのかとDIOは思い、呟いた。 「鳥は死んだぞ」 「そうか」 死ぬかもしれない、海が近いなら、と承太郎は言った。DIOはこの男のなにもかもをわかっているようなのが気に入らないと思ったが、それでも彼の言うとおりに左に進んだ。海にほうってすててやろうと思っていたのを、急に思い出したからだった。しばらく進むと潮の匂いが強くなり、なるほど海が近いのがよくわかった。 「目が見えないのは不自由だな」 「手を引いてやっているだろう」 「お前に手をひかれねぇといけないんだからな」 DIOはふんと笑って言葉には取り合わなかった。だが鬱陶しいことは変わりなく早く捨ててやろうともう一度思った。 「もう少しだな、あの日もこんな夜だった」 「何ガだ」 「何がって知っているだろう」 いわれると知っている気になった。 雨は相変わらず降っていたので、海は灰色をして、砂浜は水分を含んで、くしくしとなった。波が激しく音を立て、静寂とは遠い浜辺だった。 遠くに船が見え、それはもうすぐに沈みそうに見えた。 「船だったな」 DIOの手に引かれた承太郎が目を瞑ったまま呟いた。DIOは唐突に何もかもをわかったようにわらって答えた。 「ああ、そうだな」 「雨が降っていたな」 「ふっていたとも」 波が激しくうなって、その海面を申し訳ないかのように雨が叩いていた。波音は爆音に似て、DIOは笑みを更に深めた。 「ディオ、君が僕を殺したのは、今からちょうど百年前だね」 DIOは引いていたその手を離して、男の名を叫んだ。 しかしそれは波音や雨音にかき消され、どこにも届かない。 |
夢十夜/第三夜