晴れた五月の光。生暖かな空気と、違和感にプロシュートは煙草のフィルターをもう一度かみ締めた。こんな役目は真っ平ごめんだったのだ。プロシュートは脳裏に自分達のリーダーのあのあまり変わることのない瞳を思い浮かべてから、なんだかいっそ馬鹿らしくなってしまう。 「なにみてる」 初夏には差し掛からない光はまるで穏やかで、プロシュートは運ばれてきたエスプレッソに口をつけた。プロシュートに問いかけられた承太郎は、即答とも言える勢いで、いや何も、と返す。また沈黙が降りて、プロシュートはもう一度リゾットの顔を思い浮かべた。 (ディアボロの正体を知っているかもしれない男を、知っているかもしれない男、ね) いやはや下らない話である。なにもかもに仮定がつきすぎている。こんなことなら、ボスの娘を奪うほうが幾分か気楽だというものだ。それにそちらのほうが楽しそうでもある。何が悲しくてこんな天気のよい昼間に、男と顔を突き合わせてカフェでお茶でもしているのだろうか。なにもかもが穏やかな雰囲気なところ、プロシュートの居心地を悪くさせる。 彼の向かいに座っている男の名を、空条承太郎という。海洋学者、スタンド使い(であるらしい。というのもプロシュートは承太郎のスタンドを見たことが無い)、弓矢について調べている。パッショーネのボスを疑っている。かつての仲間を殺されたかもしれない。生きているのかもしれない。生きているのなら、それはボスを知っている男かもしれない。仮定がつきすぎる。途方もなさすぎる。 (それにイタリアとアメリカは近くない) 日本はさらに遠い。どうやってリゾットと承太郎がコンタクトをとったのか、プロシュートは知らないが、別にそんな事はどうだっていいことだ。かちゃりと食器の触れ合う音がしたがプロシュートは特にそれを気にしなかった。空は相変わらず晴れている。思わずスラングを口走りたくなる。Porca miseria! ふっと視界のはしが暗くなった。こちらを空条承太郎が覗き込んでいることにプロシュートは気づいて、もう一度同じ問いを返した。 「なにを見てる」 すると承太郎はまた即答とも取れる速さで、いや何も、とそう答えた。プロシュートは最近持ち歩きだした携帯灰皿に煙草をつめこむ。いやいや、朗らかな五月だ。まるでガキの頃のような日だ。何もする事がない、何も思い出せない。「イタリアはどうだ?」 「ああ、いいところだな」 そうか、と続けるとああと返された。この男はきっと話を続ける気が無いのだろうなとプロシュートは思う。別にそれは悪くない。なんでもしゃべる男よりも遥かにマシだ。沈黙は金、雄弁は銀だ。まぁ、間違っちゃいない。プロシュート自身も別に沈黙が苦痛ではない。 ふとみるとエスプレッソのカップは空になっている。空条承太郎があらゆる仮定の上に、わずかな可能性としてボスを知っていたとして、その瞬間に出し抜かれないためにプロシュートは彼についているのだが、しかしそれにしたって穏やかな毎日である。ふとプロシュートが承太郎のほうをみると、ばちりと目があった。 「俺はあんまり気が長くねぇんだ。同じ質問をあまりさせないでくれ、何を見てる」 幾分かげっそりとした面持ちプロシュートが承太郎にそう聞くと、承太郎は少し驚いた顔をした。即答でいやと返されないだけましだな、とプロシュートは思う。 「いや」 「何もと言ったら俺は怒るね」 こちらに幾分か近づいてる承太郎の顔を見ながらプロシュートは呟いた。プロシュートが片手で承太郎がかぶっている帽子のツバを持って持ち上げると、彼はすこし驚いた顔をした後にどうやら笑ったようだった。獣じみた笑いのように見えた。 「悪かったな。あんたの目が仲間に似ていると思っていたんだ」 気がつくと帽子はプロシュートの手から取られて、間近に空条承太郎の顔があった。まるで目に入らなかった。時を止められたような速さだった。獣じみた笑いのまま、承太郎はプロシュートの頬にそのまま口付ける。 「なんだよ」 「いや、なにも」 そういって、承太郎は取り上げられた帽子をかぶる。また沈黙が降りて、プロシュートはため息をついた。仲間は死んだかもしれない。多分死んでいる。けれど生きているかもしれない。そうしてもしも生きていたらボスの正体を知っているかもしれない。あまりにも途方が無い。 イタリアとアメリカは遠い。何がこの男を駆り立てるのか、プロシュートは知らないし別に知りたいとも思っていない。イライラと死ながら煙草を取り出して火をつけるとそれを見ながら承太郎は笑った。獣じみたそれではなく、少しばかり穏やかなものだった。 「なんだよ」 どうせ、いや、とでも返って来るに決まっているとプロシュートは思う。これならば本当にボスの娘を奪いにいったほうがマシだった。 「あんた、いい奴だなと思ってな」 五月の陽光はまったく穏やかだ。プロシュートはつけたばかりの煙草のフィルターをかみ締める。この違和感はなんなんだかな、と思いながらも、そうかいと答えた。脳裏にこんな任務を押し付けたリゾットの顔を描いて、それからまんざらでもない自分にため息をついた。 |
nさん宅のエチャで五部と承太郎!で盛り上がったときに書いたプロ承。。