ポルナレフと承太郎







 私は助けられてばかりの人生を歩んできたと、そうポルナレフは言った。小さな亀の中で、ソファに腰掛けながら優雅にだ。承太郎はポルナレフのその姿に随分と変わった彼を今更ながらに感じ取り、本当に今更だと笑ってしまった。その腕も足も作り物で、もう死んでいるらしいポルナレフには関係のない事だが、それでも胸の痛むものがあった。
「そう、嘆くような顔をしてくれるな」
 ポルナレフはテーブルに酒をおきながらそういう。
「私は、そんな顔をしているかな」
「さぁ、少なくとも私にはしているように見えるが」
 それも私の思いあがりなのかもしれないな、と穏やかな口調だった。二人はもうすでに社会通念上の前置きとか、年月の積み重ねから得た落ち着きみたいなものを纏っていて違和感はあれどそれを崩すことはためらわれていた。もしくは久しぶりにあった人間のあまりの変わりように互いにどう距離をとったものかを図りかねている。
 ポルナレフはゆっくりと指を組んだり離したりしながら、彼にはあったのか?と告げた。承太郎はポルナレフの元まで案内をしてくれた、あの年若い少年を思い出しながら頷いた。
 ジョルノ・ジョバーナについて空条承太郎が知っていることはあくまで書類上のことでしかなかった。もしくは口頭であり、写真だった。わずかな間ではあるが話してみれば、面影はあるがDIOとはあまり似ていない。康一の告げたとおり、爽やかな印象のある少年だった。
 何よりも彼には目標があり、信念があり、なにか貴重なものを背負っているように見えた。
「良い目をしていた」
 そう告げるとポルナレフはひどく嬉しそうに笑った。久しぶりにあってから常に静かな微笑が彼の顔には表れていたのだが、それとは違ったてらいのない陽気な笑みだった。
「私は、助けられてばかりの人生を歩んできた」
 ポルナレフは酒をグラスに注ぎながらもう一度同じことを呟いた。
「花京院にも、アヴドゥルにも、イギーにも、もちろんジョースターさんやお前にもだ」
 だから、と笑ったままポルナレフは続ける。
「私は彼らを助けたのだ。その結果にすぎないよ」
 嬉しいことに違いないだろう、とポルナレフは笑う。義手なのだと感じない軽い動作でグラスを渡されて、幽霊と酒を飲み交わすこの状況に承太郎は笑ってしまった。
「あまり嘆くような顔をしてくれるな」
 ポルナレフは困ったように先ほどと同じ言葉で話しかけた。承太郎はそれに、また同じような答えを返す。
「私は、そんな顔をしているかな」
 ポルナレフは、少しだけ考えた後に、いいやと首を振る。酒を煽って陽気に笑った。どうやら、私の勘違いだったようだ。
「酒でも飲もう、今日はいい日だ!」
 なぁ、承太郎!とウィンクまでされて、まるでまだ若かったあの頃のように呼ばれ、承太郎は懐かしい気持ちになった。砂漠の空気を思い出し、あの冬の事が脳裏を掠めた。ポルナレフはまったくあの日々とは違う静けさを纏いながらけれど陽気だ。
「お前は変わらないな、ポルナレフ」
 言ったとしたらまるで嘘のように響いてしまう言葉でも、それは真実に感じられる。ポルナレフは今度こそ、口を開けて笑った。
「お前だってかわらねぇさ、なぁ、承太郎」
 再会に乾杯、とグラスを合わせて互いに笑う。小さな亀の中で、再会を喜ぶ。